会長
東京大学名誉教授(物理学)
早野龍五
「調弦の理科と算数」の1回目では、倍音とフラジオレットについて書きました。ちょっと難しいと思われるところがあったかもしれませんが、今回も、中学校1年の理科の教科書の内容を使って書きますので、お付き合いください。
また、前回と同様、今回もヴァイオリンを使って説明しますが、チェロでも原理は同じです。
※「調弦の理科と算数」その1をまだご覧になっていない方、復習したい方は、こちらから!
分からない言葉などはそのままにせず、積極的に辞書や参考書を使って調べよう。
※ 前回のポイントをおさらい①
- 弦の振幅が大きいほど音が大きい
- 振動数が大きいほど音が高い
- 弦を短くしたり、弦を強く張ったり、弦を細くすると振動数が大きくなる
フラジオレットの波形を観察する
図①をご覧ください。上から、時報の440Hz、時報の880Hz、ヴァイオリンのA線の開放弦、そしてA線のフラジオレット、4つの音をそれぞれグラフにしたものです。横軸は時間、縦軸は音の振幅です(私が実際にヴァイオリンを弾き、その録音を使ってグラフを作りました)。
オシロスコープという機械を使えば音の波形をこのように表示できるということは、中学1年の理科の教科書に書いてあります。
最近では、高価なオシロスコープを使わなくても、スマホのアプリで簡単に音の波形を表示できるようになりました。
さて、図①アとイの時報の波形を見てください(時報の音を聞いたことが無いという方は、WikipediaやYouTubeでも聞くことができます。最初の「ぽっぽっぽっ」が440Hz、最後の「ぴー」が880Hzです)。
イの音がアの1オクターブ高いということが、イの山の数が2倍多いことによってグラフに表現されています。
※ 前回のポイントをおさらい②
振動数が2倍になる(もしくは弦の長さが1/2になる)と、音は1オクターブ高くなる
時報の波形は単純です。そして純粋な(しかし面白みのない)音がします。
これに対して、図①ウのヴァイオリンの波形はとても複雑ですよね。これは、440Hzの基音に、その2倍、3倍、…、の周波数の倍音(高い音)が複雑に重なっているためです。
倍音の混じり方は、楽器や奏法によって変化し、それが楽器ごとの、演奏者ごとの音の違いを生みます。特に弦楽器では、倍音をいかに上手に響かせることができるかが、音づくりで大事なポイントなのです。
次に、図①aウのA線開放弦の波形と、図①aエのフラジオレットの波形を比べてみてください。どんなことに気づくでしょうか?
プロフィール
早野龍五
東京大学名誉教授。物理学者。
1979年東京大学大学院理学系研究科修了、理学博士。
スイスのCERN研究所客員教授、東京大学大学院理学系研究科教授などを経て、2017年より東京大学名誉教授。
2016 年より(公社)才能教育研究会会長 。
反物質の研究により2008年仁科記念賞、第 62 回中日文化賞などを受賞。近著に、糸井重里氏と共著の「知ろうとすること」(新潮文庫)「『科学的』は武器になる」(新潮社)がある。
音楽や楽器演奏には欠かせない要素であるチューニングを科学の目で見てみると何が分かるのか?実験しながら一緒に考えてみましょう!