1. 「繰り返し」を深掘りする
こんにちは。Fruitful 編集部です。
今回のスズキ的LifeHacksは、ものごとの上達への王道「繰り返し」について深掘りしてみたいと思います。
分野を問わず、スキルの上達には、やはり「繰り返し」による訓練が欠かせません。
特に楽器やスポーツなどに代表される、身体の動きを伴ったもの、指先の技術を要するものの上達には「繰り返し」による訓練は必須です。
特殊な技術でなくとも、普段の生活の中で自然に上達していったものは、反対に見れば「何度となく繰り返した」ものであることがほとんどでしょう。
しかし、ただやみくもに「繰り返し」を重ねれば良いかというと・・・必ずしもそうとは限りません。そこには秘訣があります。スズキ的な「繰り返し」とはどんなものなのか、ご一緒に考えてまいりましょう。
漢字ドリルで字はきれいになるか?
宿題の定番に、漢字ドリルがあります。漢字書き取り訓練の王道です。
何度も書いて字の形や筆順を覚えたりしているうちに手が段々と黒くなり、痛くなり・・・どなたでも一度は経験のあることだと思います。
さて、この漢字ドリルを通じて「字がきれいになった」という方はどれほどいらっしゃるでしょうか?
決して少なくない方が、「書き方は覚えられたけれど字が美しく書けるようになった気はしない」とお応えになると想像します。
それは何故でしょうか?
理由は簡単で、字をきれいに書くための訓練としては使わなかったからです。
「それでも漢字そのものを覚えたり、早く書けるようになることには役に立っているではないか」と思われた方、もちろんその通りです!
つまり、練習の際にどのような視点や目的をもって繰り返したか、ここがとても重要なポイントなのです。
繰り返して得意になること
「繰り返し」による能力の向上を考える場合、つい見落としがちなポイントがあります。それは、善悪や正誤の質を問わず、繰り返したことが得意になっていくという点です。
正しいやり方を繰り返せば、正しいやり方が得意になる。これはもちろん自明のことですね。
しかし反対に、正しくないやり方を繰り返せば、正しくないやり方が得意になり、内容的に間違ったことを何度も繰り返し覚えれば、間違ったことに習熟していく。
こちらも至極当たり前のようでいて、自分が何かに取り組んでいるときにはいつの間にかその「当たり前」が脳裏から消えていることが多いのではないでしょうか?
ついつい思考停止で練習箇所を繰り返し、流れ作業にしてしまい、そのうち段々と雑にすらなっていく・・・これでは「美しさ」を求めるどころか、その真逆の能力がどんどんと鍛えられていくことになってしまいます。
さらに困ったことは、一度深く身についてしまった悪い癖を直すのは相当に大変な作業です。やはり何事も、最初が肝心ですね。
より良き一回への道
能力を高める「繰り返し」の実践は、スズキ・メソードの核となる考えの一つですが、その背後には「より良き一回」の視点があります。
つまり、「今よりも次はもっと上手に」を積み重ねていくことで、繰り返しを単純作業にせず、一回ごとにレベルアップを図ることができるという視点です。
しかし何をもって前回よりもレベルが上がったと考えるのでしょうか? そこには各自の目的意識や目標設定が必要です。
先に挙げた漢字ドリルの例で言えば、「記憶」「スピード」のほかに「美しさ」も目標に設定すれば、字のきれいさのレベルも上がるに違いありません。
美しさとスピード
目標設定を増やせば、それだけ行動が慎重になったりして時間もかかります。正直、面倒ですよね。
様々なことにコスパやタイパ*などを求めがちな昨今では、もはや「美しさ」といった視点は後に追いやられて、効率よく短時間で作業をこなすことが称賛されるのかもしれません。
もちろん、これまでの常識に囚われず、より簡単に、よりストレスなく、同じ作業ができるように追求していくことは人間の本質的欲求の一つでもあり、必要な視点でしょう。
しかしながら本来、この「効率・スピード」と「美しさ」は相反するものではないはずです。
どの分野においても、匠や名人と呼ばれる人たちの技を思い起こした時、そこには全く無駄のない動きとスピードがあり、その上さらに美しさが伴っている。このことに異を唱える方はいらっしゃらないでしょう。
そのレベルに達するために、名人たちはどのような訓練を重ねたのでしょうか?
たとえ時間がかかっても、初めて訓練に取り組んだ瞬間から、「美しさ」を求めることをあきらめることは無かったのではないかと想像します。
コスパ:コストパフォーマンスの略語。かけた費用に対する効果や満足度の比較、すなわち「費用対効果」のこと。英語では一部の業界の専門用語であり、日本語の「コスパ」と同じように日常的には使われない。
タイパ:タイムパフォーマンスの略語。かけた時間に対する効果や満足度の比較、すなわち「時間対効果」のこと。コスパから派生した造語で、こちらは和製英語。
思考の先回り
楽器の練習を思い起こせば、速いテンポでミスタッチだらけの演奏を目指すのではなく、ゆっくりでも正確さと音楽的美しさを追求した練習が積み重なることによって、徐々に動きに無駄がなくなり、様々な勘が育ち、やがて速いテンポでも精緻な演奏ができるに至ることを皆が知っているはずです。
それは、必要な筋力が養われることで手先が速く動くようになることももちろんながら、次に何をすれば良いかを深く把握し、その先の一手を準備しながら目の前のことを処理することができるようになるからです。
さらにその準備は、鍛錬を積み重ねていけば無意識のレベルで行われていきます。
こうした思考の先回りが起こるまで訓練を積むことは、スズキ的繰り返しの極意と言えるでしょう。
失敗と成功
何事においても大概の場合、最初から成功はついてきません。
初めての成功を得るまでは数多くの失敗を繰り返し、やがて「成功」らしきものが見えてきます・・が、また失敗を繰り返し・・そのうち徐々に成功の占める割合が多くなり・・ついに何度繰り返しても成功が続くようになるでしょう。
しかし、失敗が続いている段階であきらめてしまったり、投げ出してしまうことがあります。なんともったいない!
また最初の「成功」を得たことで満足してしまい、訓練を止めてしまうこともあります。これでは、持続的な本当の能力を獲得することはできません。
人によって必要な回数こそ違えど、のちに必ず訪れる「成功が続く段階」になるまでは、急がず、休まず、あきらめずに続けることが肝要です。
成功体験
こうして得た成功体験はモチベーションの向上に大きく寄与します。
苦労した後の成功であれば尚更です。
しかし、最初からハードルをあまり高く設定しすぎると、その成功体験を得るまでに挫折してしまうことも考えられます。ですから一歩一歩のハードルはさほど高くなくすることも肝要です。
小さな「できた!」「やった!」をモチベーションに、どんどんと訓練を積み重ねて、知らぬ間に高いレベルに到達していくことも、スズキ的なスキルアップのアイディアですよね。
いざ、次のステップ(レベル)へ
そうして獲得した能力を土台にして、さらにそのレベルを高めていく作業は、スズキ的な能力向上の観点からとても重要です。
訓練が積まれ既にある程度簡単にできるようになった技術であれば、「今度はここをもっと工夫してみよう」と見直しできる余地が拡がり、これまでの技術がさらにブラッシュアップされたり、他のスキルにも応用されたり、または次の新しいスキル獲得への素地も整います。
その意味で、能力向上のための「繰り返し」は、できるようになってからが本当のスタートです! 常に自分を高める視点を忘れずに、さらなる高みをご一緒に目指してまいりましょう。
さて、スズキ的繰り返しの秘訣、いかがでしたでしょうか?
今回は、漢字ドリルを例に「記憶」「スピード」「美しさ」を目標設定の構成要素として挙げましたが、これらを是非あなたの身近な課題に置き換えて実践してみてください。
もし語学に取り組んでいる方でしたら、文字の上だけで言葉を学ぶのではなく、そこに実際の発音練習や音声学的視点も取り入れてみましょう。きっとリスニング能力もスピーキング能力も向上するはずです。
仕事上の資料作りをするのでしたら、データの取捨選択やそのまとめ作業に加えて、見やすさや伝わりやすさも目標に加えてみてください。一段レベルの高いプレゼンにつながることでしょう。
「イイナ」と思ったら、早速実行をお忘れなく!
ではまた、次回まで。