会長
東京大学名誉教授(物理学)
早野龍五
「調弦の理科と算数」の最終回、今回はいよいよ調弦の話です。これまで通りヴァイオリンを使って説明しますが、チェロでも原理は同じです。最後の部分でピアノの調律についても触れます。
題名の通り、あちこちに理科と算数が出てきます。難しく感じる部分があるかもしれませんが、すべて中学校の範囲です。楽器に触れながら、ゆっくりとお読みください。
※ 前回までの記事をお読みでない方、復習したい方は、こちらから!
・調弦(ちょうげん)の理科と算数 その1
・調弦(ちょうげん)の理科と算数 その2
分からない言葉などはそのままにせず、積極的に辞書や参考書を使って調べよう。
※ 前回までのポイントをおさらい
- 弦の振幅が大きいほど音が大きい
- 振動数が大きいほど音が高い
- 弦を短くしたり、弦を強く張ったり、弦を細くすると振動数が大きくなる
- 振動数が2倍になる(もしくは弦の長さが1/2になる)と、音は1オクターブ高くなる
1.中学1年で学ぶ「共鳴」
中学1年の理科では、同じ高さの音を出す2つの音叉(AとB)を並べ、Aの音叉をたたいて音を鳴らすと、Bの音叉も鳴りはじめる現象、すなわち「共鳴」について学びます。ここで大事なのは「同じ高さの音」という部分で、教科書にもそのことは明記されています。
前回の記事で、「ヴァイオリンのG線の第1ポジションの4の指で出す音は、G線の隣にあるD線の開放弦と同じ高さの音なので、(弓がD線に触れなくても)D線が共鳴して振動する」と書きました。これは、中学1年で学ぶ2つの音叉の場合と同じ現象です。
2.前回の記事の最後に出てきた謎
「前回の最後に出てきた謎って何だっけ」という方がほとんどだと思うので、まず復習です。そのために、前回の最後に出てきたのと同じ画を図①に再掲します。
図①上のように、G線の上駒から1/3のところに軽く触れると、G線の開放弦の3倍音が出ますが、その音の高さは、弦をしっかり押さえた場合(図①下)の1オクターブ上で、レ(D5)の音です(連載1回目でも書きましたが、弦の振動長が1/2 → 音は1オクターブ高い)。
また(楽器をお持ちの方は試していただけたと思いますが)、G線の1/3フラジオレットでレ(D5)の音を出すと、隣のD線が少し振動します。
D線の開放弦の音の高さはレ(D4)なので、G線の1/3フラジオレットで出る音とは音の高さが違うことに注意してください。
あれ?同じ高さの音でなくても、共鳴するのはなぜだろう?
これが、前回の最後に出てきた謎でした。みなさん、理由を考えてみましたか?
プロフィール
早野龍五
東京大学名誉教授。物理学者。
1979年東京大学大学院理学系研究科修了、理学博士。
スイスのCERN研究所客員教授、東京大学大学院理学系研究科教授などを経て、2017年より東京大学名誉教授。
2016 年より(公社)才能教育研究会会長 。
反物質の研究により2008年仁科記念賞、第 62 回中日文化賞などを受賞。近著に、糸井重里氏と共著の「知ろうとすること」(新潮文庫)「『科学的』は武器になる」(新潮社)がある。
音楽や楽器演奏には欠かせない要素であるチューニングを科学の目で見てみると何が分かるのか?実験しながら一緒に考えてみましょう!