第3回 ワーキングメモリと集中力・知能の関係性(1)
東北大学
認知行動脳科学
細田千尋
ワーキングメモリという言葉を聞いたことがありますか? ワーキングメモリは、私たちの複雑な記憶の仕組みを説明するシステムの一部です。これまでの研究から、ワーキングメモリの高さは知能や他の様々な能力と密接に関連していることがわかっています。
そこで、ワーキングメモリに関する5つのポイントを紹介していきます。
- ワーキングメモリは一体どのようなシステムなのでしょうか?
- ワーキングメモリはどのように測定されるのでしょうか?
- ワーキングメモリの高さの個人差はどのような能力などと関連するのでしょうか?
- ワーキングメモリはトレーニングで向上させることができるのでしょうか?
- ワーキングメモリのトレーニング効果とはどのようなものなのでしょうか?
今回は、①‐③についてお話しします。(④以降は次回)
ワーキングメモリと計算能力や楽器演奏
ワーキングメモリは、私たちの脳が情報を処理する際に使用されます。
入ってくる情報を記憶しながら、どの情報が重要で残すべきか、何を削除すべきかを選択したり、必要な情報を、すでに記憶されている中からも検索して取り出すという役割を果たします。簡単に言えば、目的をもって情報を保持しながら、同時に他の認知操作も行なっていく仕組みです。
短期記憶との違いは重要で、短期記憶は単に情報を保持するだけですが、ワーキングメモリは情報を選択的に保持しながら他の処理を行う、能動的で目的志向の記憶です。
ワーキングメモリの機能を理解するために具体的な例を挙げてみましょう。例えば、「23×9」という計算を暗算で行う場合、まず1の位を計算して27という答えを覚え、次に10の位を計算して18という解答を覚えます。最後に、1の位の解答である27に10の位の解答である18を足すというように、頭の中で計算をしながら(認知操作)と繰り上がりなどを覚える(保持)というプロセスを経て、最終的な答え207が得られます。このように、ワーキングメモリは課題に必要な情報を一時的に保持し、同時に処理を行うといった能力が求められるのです。
また、楽器演奏においてもワーキングメモリは不可欠です。
楽譜を見ながら演奏する際に、暗譜していない部分の情報に注意を集中しながら、同時に演奏をしたり、音量や抑揚の調整をしながら演奏することも、保持と操作を使うワーキングメモリ処理です。
ワーキングメモリの構成要素
ワーキングメモリは、いくつかの要素から成り立っており、以下がその鍵となる要素です。
プロフィール
細田千尋
東北大学 加齢医学研究所 認知行動脳科学研究分野 准教授。
東北大学大学院情報科学研究科 准教授。
東京医科歯科大学博士課程修了。博士(医学)。内閣府主導ムーンショット型研究開発事業プロジェクトマネージャー、内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる創発的研究支援研究代表者など複数の国家プロジェクトの研究代表を務める。International symposium Adolescent brain & mind and self regulation Young investigators Award June受賞、成茂神経科学賞受賞など受賞多数。仙台市学習意欲の科学的研究プロジェクト委員。PRESIDENT にコラム「脳科学で考える世の中のウソ・ホント」 を連載中。NHK 「思考ガチャ」、NHK Eテレ「バリューの真実」、日テレ「カズレーザーと学ぶ」などメディア出演多数。