第6回 民間活動としてのパートナーシップ
一般社団法人エル・システマジャパン
代表理事
菊川 穣
民間の支援と公的な支援
前回は、活動を地域に根ざした持続可能なものにするため、教育委員会や学校とパートナーシップを結んで事業を実施することが、エル・システマジャパンとして大切だという話をしました。今回は、その行政との連携を補完する民間分野でのパートナーシップについて語ります。
実は、行政、もしくは、その外郭団体の事業として資金を確保していると、多くの民間の助成金の対象から外れてしまいます。公的な活動なので、民間の支援はいらないはずという認識のようですが、これは問題ではないでしょうか。むしろ、行政からも支援があるということは、活動の公共性が確保されていると理解してもらえれば、ここに民間の資金で、更に応援しようということになるのかと思うのですが、このことはなかなか理解してもらいにくいのが現実です。
もちろん、そこを認めてくれる民間の助成財団も存在し、そうした団体からの助成金の確保は重要ですが、複数年での申請には制限があることも多いので、助成金以外の民間からの資金を獲得する必要がでてきます。これは一般的に寄付金と言われるもので、大きく個人から、そして法人(企業)からという分類になります。別の分類としては、単発による都度寄付と、継続的な賛助会員(マンスリーサポーター)といった分け方もあります。
まとまった金額でということであれば、企業からの協賛という形が効率的に思われる方が多いかもしれませんが、企業、特に、売上が安定しており、社会貢献活動への支援に熱心なところは、そもそも、多くの関係者から常に寄付を要請される立場でもあり、新規で、活動を理解頂き、応援を始めて頂けることは容易ではありません。その企業の経営理念に沿った効果的なアピールを、然るべきタイミングで実施する必要があるのです。
ふるさと納税の活用
実は、企業からの寄付を促進するための制度的枠組みとして、企業版ふるさと納税という仕組みがあり、相馬市ではこの制度が利用できています。これは、一般のふるさと納税のように返礼品はなく、相馬市に本社を置く企業は利用できないのですが、寄付額の最大9割が損金扱いにできる等、企業にとっても税制上のメリットが大きい仕組みです。幸い、エル・システマジャパンの相馬での活動は、この制度を使って、毎年それなりの企業寄付を集めることができています。
また、相馬や駒ヶ根の事業の場合、個人からの寄付もふるさと納税で、エル・システマジャパンの活動を応援できるようになっています。ただ、個人からの寄付の場合は、市として決めている予算に充足されるため、資金として追加で提供されることはなく、個人からの追加での寄付は、地元で開催する音楽祭等のイベント時に別途、協賛を募ることや、イベント当日での募金活動が主な手段となります。

マンスリーサポートとクラウドファンディング
個人からの寄付を集めることは、今後ますます重要となると考えています。前職だった日本ユニセフ協会は、民間セクターからの応援団である、ユニセフ国内委員会のネットワークで、ユニセフへの寄付額が世界1、2位を争うぐらいでしたが、その大きな割合が個人からの継続的な寄付でした。このマンスリーサポートという仕組みは、毎月の寄付額は1000円といった単位から始められますが、長期に渡る支援によって、団体にとっては、管理費への支出も可能な非常に使い勝手が良い資金源となります。
エル・システマジャパンを創設した時から、私としてもこのことは十分に理解していたつもりで、個人のマンスリーサポーターを集めるぞ、と勢い勇んだのですが、ユニセフと比べたら、エル・システマの知名度は皆無で、本当に困難な歩み(現在も)であったことは事実です。実際、心理的に、単発での応援をしたいと思っても、毎月定期的に引き落とされるとなると、躊躇してしまう方が多いのです。
そうした中、活動拠点や内容を指定できる制度を導入し、クラウドファンディングの仕組みを使った、マンスリーサポーター拡充キャンペーンを実施し、応援団を拡充することに努めてきました。特に、弦楽りぼん・児童養護施設プロジェクトを2023年に開始する際は、公的な団体との連携なしで始める初めての事業だったこともあり、このためのマンスリーサポーターを50人集めるという目標を掲げてのキャンペーンを実施し成功を収めました。

また、日本におけるクラウドファンディングのサービスが始まったのが、ちょうどエル・システマジャパンを創設した時期だったこともあり、実現したい大きなイベントのための資金調達として、クラウドファンディングも数多く実施してきました。全ては列挙しませんが、2013年にベネズエラから思いを持ってくれた指導者達(ドゥダメルさんのアシスタントも務め、活躍していた指揮者のドスサントスを含む)を招聘して実現した相馬子どもオーケストラとしての最初の夏期教室。2016年にドイツへの演奏旅行、2017年の東京芸術劇場であったエル・システマフェスティバル開催。最近では、2023年に、大槌の子どもたちが被災地支援の職員派遣等で関係があった豊中で開催された「世界のしょうない音楽祭」に呼んでもらった時に旅費を工面するため、というのもありましたし、東京子どもアンサンブルの主催コンサートでの寄付つきチケット販売という目的でも行いました。
資金調達後のフォロー
こうした個人を対象とした資金調達は、その後のフォロー、ケアが大切で、またここが最も大変なところでもあります。個人情報の適切な管理と運営、それに基づいた最適なコミュニケーションの選択と試行が必要で、これらは、データベース技術の進歩によって簡易になりつつありますが、担当者が責任を持って様々な分野のスタッフと、丁寧に共同作業をすることで実現できると考えています。
プロフィール
菊川 穣(きくがわ ゆたか)
神戸生まれ。幼少期をフィンランドで過ごす。University College London地理学BA(1995年)、政策研究学(Institute of Education)MA(1996年)。(株)社会工学研究所を経て、国連教育科学文化機関(ユネスコ)南アフリカ事務所、国連児童基金(ユニセフ)レソト、エリトリア両事務所で、教育、子ども保護、エイズ分野の調整管理業務を担当。2007年に日本ユニセフ協会へ異動、J8サミットプロジェクトコーディネーター、資金調達業務に従事後、2011年より東日本大震災支援本部チーフコーディネーター。2012年、(一社)エル・システマジャパンを設立、日本ユニセフ協会を退職、代表理事に就任。公益財団法人ソニー音楽財団こども音楽基金選考委員会議長(2019年〜2021年)。公益財団法人音楽文化創造理事(2022年〜)。
