第5回 コミュニケーションスキル
東北大学
認知行動脳科学
細田千尋
子どもたちが自身の未来を切り拓くために必要な重要な要素の一つが、「コミュニケーションスキル」です。このスキルは、子どもたちが友人や先生と良好な関係を築き、社会で成功するための基盤となります。
パンデミックが子どものコミュニケーションスキルに及ぼした影響
コロナウイルスによるパンデミックは、子どもたちのコミュニケーションスキルに大きな影響を与えました。先日、東京都内の私立一貫校での講義の際、高校1年生の担任の先生から「友達に自分で言えないから、先生に仲介に入ってほしい」という小学生のような相談を受ける事が格段に増えているとの話を聞きました。特に、この学年は中学校の3年間をほとんどオンライン授業で過ごした世代であり、友人との直接的な交流が制限されていたことが要因と考えられます。
COVID-19パンデミックによるマスクの着用やソーシャルディスタンスの導入は、特に子どもたちの言語とコミュニケーションの発達にネガティブな影響を与える可能性があることが研究業界でも指摘され続けていました。子どもたちは、顔の表情を読み取ることが難しくなり、また、教室での対面でのやり取りが減少したことで、コミュニケーションスキルの発達が遅れる可能性が心配されていました (Charney et al., 2020)。
実際、最近の研究から、オンライン学習中に学生たちが感じた孤立感や社会的なつながりの欠如によって、協力や共感といった基本的な社会的スキルやコミュニケーションスキルが健全に発達しなかったことが示唆されています (Afriani & Ramadan, 2021)。
コミュニケーションスキルと学業や社会的成功、幸福の関係
コミュニケーションスキルは、対人関係だけでなく、学業にも大きく影響します。例えば、幼い頃からコミュニケーションが得意な子どもは、学業成績も優れていることが多いです (McClelland et al., 2000)。また、言葉を使って物語を作ったり、自分の考えをまとめる力がある子どもは、友人と良好な関係を築くだけでなく、学業成績も高い傾向があります (Shaqiri et al., 2020)。
プロフィール
細田千尋
東北大学 加齢医学研究所 認知行動脳科学研究分野 准教授。
東北大学大学院情報科学研究科 准教授。
東京医科歯科大学博士課程修了。博士(医学)。内閣府主導ムーンショット型研究開発事業プロジェクトマネージャー、内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる創発的研究支援研究代表者など複数の国家プロジェクトの研究代表を務める。International symposium Adolescent brain & mind and self regulation Young investigators Award June受賞、成茂神経科学賞受賞など受賞多数。仙台市学習意欲の科学的研究プロジェクト委員。PRESIDENT にコラム「脳科学で考える世の中のウソ・ホント」 を連載中。NHK 「思考ガチャ」、NHK Eテレ「バリューの真実」、日テレ「カズレーザーと学ぶ」などメディア出演多数。
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自己を客体化して現在の自分自身の状態を認識する能力「メタ認知」について、興味深く分かりやすく説明してくださいます。
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