
小児神経科医
植松有里佳
こんにちは。1年ぶりに原稿を書かせていただいております。
突然ですが、皆さんの小児科のイメージはどんな風でしょうか? お医者さんは聴診器で呼吸と心臓の音を聞いて、喉を見てというものでしょうか?
私の大学病院での診療は、この皆さんが想像する小児科の風景とは少し違うかもしれません。椅子に座ってお子さんとお話をして、親御さんともお話をします。時々は使うこともありますが、聴診器が登場することはあまり多くありません。検査もほとんどしません。
言葉だけでなく、親子の表情やご様子から読み解かれることをとても大事にしています。そんな発達支援の現場から「褒めて育てる。」ということをテーマに考えたいと思います。
ペアレントトレーニング
褒めて育てることが大事とよく言われます。
実際にはどうしても怒ってしまうことが多く、私も日々反省します。そして、当たり前のことですが、褒めることだけでは子どもは育ちません。
子育てに役立つ手法の一つとしてペアレントトレーニングという手法のエッセンスを少しだけご紹介します。ペアレントトレーニングは元々神経発達症*のお子さんの行動を修正する手法として生まれましたが、今では全てのお子さんの子育てに役立つ方法として知られています。
従来は「発達障害」と呼ばれてきた、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠陥・多動症(ADHD)、限局性学習症(LD)などの総称
お子さんの行動を分類する
ペアレントトレーニングでは、お子さんの行動を3つに分類します。
好ましい行動、好ましくない行動、許しがたい危険な行動です。
ここでは簡単に好ましい行動と好ましくない行動にだけ分けて考えてみたいと思います。
好ましい行動は増やしたい行動ですから、たくさん関わって相手をしてあげます。褒めてあげたり、話を熱心に聞いたりするわけです。そうするとお子さんはこの行動をさらに増やしてくれます。
一方、好ましくない行動については、減らしたい行動ですから相手にしないことでその行動を減らします。これがペアレントトレーニングの基本的な考え方です。お子さんは関わった行動を増やしてくれるのです。
減らしたい行動に関わってしまう日常
しかし、日常では好ましくない行動=減らしたい行動は、その多くが指導が必要な行動ですから、怒ったり、厳しく注意してしまうことで相手をしてしまい、余計にそのことが増えてしまいがちです。
一方、好ましい行動は、良い行動なので、指導はいらないことですから、相手にしなくなり、その行動を増やすことにつながらなかったりします。

兄弟喧嘩にどう関わるか?
例えば、兄弟喧嘩の場合はどうでしょう?
兄弟喧嘩に怒って関わっていては、それが増えてしまいます。
喧嘩をする前には必ず兄弟で仲良く遊んでいた時間があったはずです。そこに対して「お兄ちゃん、弟の面倒見てくれてありがとうね。」「二人とも仲良く遊べていいね。」と関わってあげることで、好ましい行動を増やすというわけです。
好ましくない行動の相手をしないことよりも、好ましい行動に関わることがとても大切です。

そして、やるべきことはできるように。
ただ、日常生活では、なんでも褒めることは不可能です。
注意すべきは、「叱ってはいけない」ということではないということです。
正しいやり方を教えることはとても大事なことです。やるべきことができるように、親御さんがお手本になってやり方を示し、教えて関わり、できたこと、やろうとした努力を褒めて関わっていくことが大切です。

本当に褒めているかは子どもに伝わる
時々、全然できていないのに褒められてすごく傷ついたと言ってくる子がいます。できて当たり前のことで「すごいね!」と言われたり、できていないのに「素晴らしい!」と言われても嬉しくないのです。
言葉では褒めていても、表情で見抜かれているかもしれません。お子さんの取り組みが完成とは程遠くても、「ここの部分良かったよ。」と努力したところに注目し、「次はきっとここもできるよ、頑張ろう。」など、よくやったところに関わっていれば、必ずしも褒め言葉でなくても子どもの心に届きます。
私の外来では、「緑の椅子に座ります。」
私の外来でのお話です。
患者さんの中には、重度の知的発達症のために言葉を発することができず、理解も難しく、やり取りができないお子さんもいます。そのお子さんを病院に連れてくるということはとても大変なことですが、親御さんは一生懸命お子さんを連れてきてくださいます。
お子さんは診察室から出てしまうこともありますし、おもちゃで遊んで何とか診察室にいるのが精一杯ですから、親御さんのお話を伺うしか診察する方法がないように思いますよね。私は診察としておもちゃで遊ぶお子さんの行動観察をすることは多いのですが、その前に必ずすることがあります。
それは、言葉を話さないお子さんであっても、まずお子さんに私の前の緑色の椅子に座ってもらい、話しかけて表情を確認するということです。
初めて私の外来に来て、お子さんはおもちゃにまっしぐらで、私の前の椅子に座るのが、お子さんではなく親御さんであった場合、私は親御さんにお願いとして、「診察室に来たらお子さんがこの緑の椅子に座る練習をしましょう。私の外来では『緑の椅子に座ります。』これを本人に伝えて、お家にある椅子に座る練習をして次回外来に来てください。親御さんが一生懸命連れてきてくださったのですから、私はお子さんをまずしっかり見て診察したいです。」とお伝えします。
親御さんの中には、緑の椅子の写真を撮って帰り、次回までお子さんに写真を見せながら椅子に座る練習をしてきてくださる方がいます。次回以降の外来でお子さんが目の前に座ってくれると、座った様子や表情からここ最近の状態がよくわかります。そしてたとえ言葉が通じなくても、あなたのために力になりたいと思っていること、あなたを診たいと思っていることを感じてくれたらいいなと思います。
しばらく本人に話しかけ、もちろん返答はありませんが表情を見せていただいて、最後に「椅子に座れてとても立派でしたね。あなたがしっかりやれていることがわかりました。おもちゃで遊んで待っていていいですよ。」と笑顔で話し、身振りで示すと、お子さんは満足そうに立ち上がって、以前と同じようにおもちゃで遊び、そしてようやく私は親御さんのお話を伺います。
どんな重度の障害をお持ちのお子さんでも、何度か繰り返して、1年以内に必ず緑の椅子に座れるようになります。関わった行動は増やせるのだということをお子さんと親御さんから教えていただいています。
プロフィール
植松有里佳
8歳の女の子の母。小児科医。専門は小児神経学で、神経難病からてんかん、発達障害まで幅広く診療している。




昨今、子どもが我慢できなくなったり周囲に合わせることが難しかったり・・・そんな現象の原因はどこにあるのでしょうか。発達支援の現場から感じることをお書きくださいました。

今回は、実際の診療でのケースを例に、メディアとの接触時間が子どもの生活に与えてしまう影響の大きさを考えます。

前回に引き続き、現代の生活の中に深く入り込んでいる映像メディアに潜んだ諸問題を、目に見えるようにして解説していきます。今回は学齢期以降の子どもにフォーカスを当てます。

現代の子育てで最も気になるトピックスの一つであるメディアとの関わり方について、小児科医の目線からの提言です。

第4回の記事に寄せられた質問への回答から、思春期に向かう子どもたちにとって、あるいは親自身が何を指針とするべきかのヒントが示されています。

子どもたちが遊びを通して身につけていくものは何なのか? 家でも外でも、家族や仲間と自然に育むことのできる能力についてお話しします。

夏休みの時期につい乱れがちになる睡眠。年齢に応じて必要な睡眠時間や、学習との関連、さらにお昼寝をした場合の就寝時間への影響をお話しします。

今回は思春期の子どもの身体の発達と、それに伴う心理の変化(=二次反抗期)に対し、どう対応していくのが良いのか・・・小児科医の立場からの提言です。寄せられた質問への回答もございます。

子どもは運動機能の発達が進むと、言葉の発達も促されます。さらに年齢とともに自我が目覚め、一次反抗期へ・・・そのとき、周囲の大人の心構えはどうすれば良いのでしょうか?

生まれてから4‐5歳まで、子どもはどのような段階を経て運動能力を発達させていくのでしょうか?全身運動から手先を使う作業に至るまでの道筋を解説します。

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