
東京大学名誉教授
精神科医師・医学博士
佐々木 司
今回は不登校について考えます。スズキ・メソードに「不登校」は少し場違いな印象を持たれるかもしれませんが、今の日本では不登校はどのようなお子さんにも起こりうる問題です。
また不登校の時にお子さんの「居場所」を考える際、実はレッスンの場が役立つ可能性も考えられますので、テーマとして取り上げることにしました。
不登校の現状
2024年度の文部科学省調査によれば、我が国で不登校の小中学生は35万人を超え過去最多となりました(小学生で13万8千人、中学生で12万6千人)。これは小学生全体の2.3%、中学生では6.8%に及ぶ人数です。不登校の持続期間も長く、学年を超えて続く場合も多いのが実状です。
高校生の不登校は6万8千人と小中学校より少ないのですが、高校は義務教育でないため、欠席で授業の単位が取れないと留年となり、退学を選択する生徒が多いためと考えられます。
なお文部科学省の調査では、「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しない、またはしたくともできない状況にある子ども」が「同じ年度内に欠席日数が30日以上の場合」を不登校と定義しています。
したがって年間の欠席日数が30日未満の子どもを含めれば、人数はさらに多くなります。また明確な「病気」や「経済的な理由」による欠席の場合は、「不登校」にはカウントされません。
事情は様々
不登校に関わる要因としては、学校生活への意欲低下、生活リズムの問題(睡眠時間帯のずれ等)、学業不振、家庭に関わる問題、友人関係をめぐる問題などがあげられています。一口に不登校といっても、事情は子どもごとに様々のようです。
また当初の原因とは別に、不登校そのものが、学業の遅れ、学校生活との疎遠などを介して、登校を難しくする場合もあるでしょう。
保護者の心配・不安
自分の子どもが不登校になったときの親の心配・不安の大きさは言うまでもありません。不登校は長引くことも少なくありませんので、「今後どうなってしまうのだろう?」と心を痛めることが多いと思います。
「受験と進学はどうなるのだろう? 今の学校に通い続けることは可能なのだろうか?」という不安のほか、不登校が長引けば「将来社会に出ていけるのだろうか?」との心配も出てくるでしょう。
我が子に突如として現れた問題と心配に心を痛め、「何とかして学校に行って欲しい」と考えるのが親として当然のことと思います。
子どもの抱える負担
ただここで考えないといけないのは、子どもが抱えている心の負担についてです。
不登校となったのにはそれなりの理由や事情があり、保護者など大人に本音を言えない場合もあります。
子どもにもプライドがあり、また、保護者の期待を裏切れない、心配をかけたくないという気持ちもあります。不登校の背景となっている事情が深刻なほど、この傾向は強くなる可能性があります。
不登校が続いていることそのものも、保護者にとってと同様、子どもにとっても心の負担となります。これは忘れていけないことです。
親にしてみれば子どもの不登校による不安・心配からついつい子どもを責めたり、無理やりにでも登校を再開させようと必死になることがありますが、それによって子どもを追い詰めないよう気を付ける必要があります。

保護者にできること
一つには、子どもが安心して話せる土台を作ることです。
これは、いきなり子どもと話し合いをする、といったことではありません。まずは「今かなりしんどいのかも知れない」と受け止めるところから始めることです。
子どもは学校に行けてないことで内心自分を責めていることが多いと思います。親の言葉や表情、仕草にも敏感になっているかも知れません。そういったことを心にとめつつ、普段の会話やちょっとしたことで、子どもが安心できる家庭の雰囲気を整える、ということです。
焦って喧嘩しない
子どもの不登校のことで両親の仲がギクシャクしたり、喧嘩するということもあるかも知れません。これに子どもは敏感に反応します。
不登校の原因はすぐ解決できないことも多く、また解決策も何か決定的な1つがあるとは限りません。
親が焦るのは当然といえば当然で理解できますが、ここは是非腹を据えて、両親一緒に冷静に考えて対応していく方が得策と思います。
ゲーム依存やリズムの乱れ
ゲームなど夜中のスマホ使用や、それによる夜更かし・朝寝坊、睡眠覚醒リズムの乱れが不登校を長引かせている場合もあります。
これらの問題は頑固で、なかなか改善しない場合が多いと思います。専門家の知恵を求めることも考えてください。
実はこのような問題は、専門家にとっても簡単には解決できるとは限らないのですが、保護者だけで悩むよりは専門家と一緒に考えていく方が、解決の糸口もつかみやすいかも知れません。
なお子どもが一緒に行けない場合は、まず保護者だけで相談に行く、という方法もあります。
勉強が遅れない工夫を
不登校が続いたあと学校に戻りにくくなる理由の1つに、勉強の遅れがあります。
算数・数学や英語などを考えると分かりますが、学校の科目の多くは、先に勉強した土台の上に新しい内容が積み重なる構造となっています。そのため不登校の間に勉強できてない部分が多いと、学校に戻っても授業内容が理解できないかも知れません。それが気持ちの負担になれば、一度学校に戻ってもまた通えなくなるリスクが高くなります。
これを防ぐには、学校に通えない間も勉強が遅れないための工夫が役立ちます。親が勉強を見てあげるという方法もあるでしょう。それ以外にも、オンラインで授業が受けられるよう学校と相談する、支援校などを利用するなど、最近は複数の選択肢があるようです。

学力・学歴を身につける
元々通っていた学校に戻るか否かは別にして、基本的な学力を身につけておくことは将来社会人として仕事をしていく上で重要です。また高校をはじめとして学校の卒業資格をとれるようにしておけば、職業生活のスタートでも有利になります。
今までのような日本型の「学歴社会」は今後変わっていくかも知れませんが、学力を身につけ、卒業資格を得ることの大切さは今後も続くと思います。
ちなみに、仮に高校を卒業しなくても、高校卒業程度認定試験(いわゆる高認)に合格すれば、大学受験は可能です(「高認」は16歳以上であれば、高校在籍中でも退学しても、高校に入らなくても受けられます。)。また定時制や通信制高校のほか、今はオンラインの高校・塾もあります。それらを含めて様々な選択肢を考えていくと良いかもしれません。
人との接触の機会
不登校でもう1つ少なくなるのは、人と接触する機会です。これが少なくなると、生活のリズムも崩れ、夜型生活に陥りやすくなります。
SNSやオンラインゲーム等、最近ではAIとの対話も「対人接触」なのかも知れませんが、実社会での生身の対人接触とは性質が異なります。また夜型を加速して生活リズムの崩れを固定化する点も問題です。
やはり生身の人間と接触する機会をできるだけ保つこと、そのための居場所をもつことが大切だと思います。最近ではフリースクール等がそういう場として役立っているかも知れません。
居場所としてのレッスン
実は楽器のレッスンも、そういう場として役立つかも知れません。指導してくれる先生とは大抵は長年の付き合いで、「互いに気心が知れた仲」ということも多いと思います。
それと毎週通う、というのも大事な点です。定期的に通う場所があって、毎日(あるいは週に何回か)練習をする、つまり家ですることがある。しかも学校のこととは別の、楽しめることとしてある、というのが肝心なところです。
それまで通り、いつものレッスンを
学校のこと・不登校のことなどをレッスンで無理に話す必要はありません。それまで通り、いつものレッスンで良いのです。
楽器の弾き方・吹き方や演奏を学ぶために先生との対話があれば十分です。上達できた達成感を得られて、音楽演奏の楽しみを感じられれば、さらに良いと思います。
それで家での練習にも張り合いが生まれ、楽しさが増せば、言うことなしです。
グループレッスンも可能なら
もし行けるなら、月1回のグループレッスンにも出てみると良いかもしれません。グループレッスンは同年代(あるいは近い年代)の子どもたちと同じ時間と空間を過ごす貴重な機会だからです。
ここでは「学校以外の仲間」と過ごせる、というのが1つのポイントのように思います。また、無理に会話をする必要はなく、合奏を通じて一緒の時間を過ごせる、というのも良い点かと思います。
ただ、同じ年代の子と過ごすのが苦しい時もあるでしょうから、個人レッスンと違って、グループレッスンへの出席は時期と調子を見計らって慎重に、とも思います。
途中からの参加、途中での退出もありかと思います(指導者の皆様はご配慮ください)。しんどい時は無理をしてはいけません。
おわりに
今回は不登校について取り上げました。今の日本では中学・高校の年代の約1割が不登校となっています。子どもにも保護者にも大変しんどいことですが、誰にも起きうる問題でもあります。
今回書いたことは、私の頭の中で考えたことも多いので、すべての人に当てはまるとは言えませんが、もしそうなった時、なりかけた時のために参考にして頂ければ幸いです。
佐々木司(ささき つかさ)
東京大学名誉教授、公立学校共済組合関東中央病院メンタルヘルスセンター長、精神科医師・医学博士。小学校入学後よりスズキ・メソードでヴァイオリンを習う。東京大学医学部医学科卒後、同附属病院精神科で研修。クラーク精神医学研究所(カナダ、トロント市)に留学。東京大学保健センター副センター長、同精神保健支援室長(教授)、同教育学研究科健康教育学分野教授などを歴任。思春期の精神保健、精神疾患の疫学研究、学校の精神保健リテラシー向上などに取り組んでいる。日本不安症学会副理事長、日本学校保健学会常任理事、日本精神衛生会理事を兼務。


「うちの子、全然練習しなくて困る」とお悩みの保護者の方へ、現役の先生や保護者、楽器を続けてきた大学生へのインタビューから見えてきた、子どもが楽器嫌いにならないための「親の最大の務め」とは? 親子で音楽を伸び伸び楽しむためのヒントをたっぷりお届けします。














