第5回 「反抗期」について考える
東京大学教授
精神科医師・医学博士
佐々木 司
前回は子どもを叱ったり注意したりするときに気を付けるべき点について書きました。子どもの気持ちに残るような注意の仕方や冷静に注意するにはどうしたら良いかなどです。
ただ、一生懸命気を使いながら注意しても、子どもの方で聞いてくれないこともあります。特に思春期の子どもは不機嫌になりやすく、親の言うことを聞いてくれないこと、反抗的で手に負えないことも日常茶飯事です。
今回は思春期のこの問題、反抗期の問題について考えてみたいと思います。
なぜ「反抗」するのか
思春期には、性ホルモン分泌の増大とともに感情がゆれやすくなり、気持ちが不安定になりがちです。同時に思春期は、自分のアイデンティティを探して葛藤を続ける時期で、親からの自立が大きな課題となります。
つまり、親の言うことがそのまま自分の価値判断だった子ども時代を過ぎて、親の考えとは別の新たな価値判断を模索する時期に入る訳です。このため、それまでは素直に受け入れてきた親の考えや行動規範に、急に批判的・反抗的となるのも避けられない訳です。
もちろん子ども時代にも、「親の言うことをきかない」ことはあったでしょう。ただ、子ども時代の「言うことをきかない」が、欲しいものを買ってもらいたくて「駄々をこねる」レベルだったのに対して、思春期に入ると、親の考え方や価値判断に異を唱えるようになりますから、「言うことをきかない」の質が違ってきます。
「言うことをきかない」からと言って、小さい頃の「わがまま」と同じようにピシャっと叱っても、なかなか上手くいかない訳です。
子どもは必然的に親を批判する
プロフィール
佐々木司
東京大学教授、精神科医師・医学博士。小学校入学後よりスズキ・メソードでヴァイオリンを習う。東京大学医学部医学科卒後、同附属病院精神科で研修。クラーク精神医学研究所(カナダ、トロント市)に留学。東京大学保健センター副センター長、同精神保健支援室長(教授)などを経て、現在、同教育学研究科健康教育学分野教授。思春期の精神保健、精神疾患の疫学研究、学校の精神保健リテラシー向上などに取り組んでいる。日本不安症学会理事長、日本学校保健学会常任理事、日本精神衛生会理事を兼務。